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紙アラカルト 印刷に使う基本の紙

みなさんこんにちは。これから何回かにわたって印刷で使う「紙」について話したいと思います。ふだんはほとんど意識することのない紙ですが、わたしたちの暮らしにどのくらい関わりがあるかすこし見ていきましょう。お茶でも片手におつきあいください。
 パソコンやスマートフォンの普及にともなって社会が急速にデジタル化する昨今、同時にペーパーレス化も進むなか、なお私たちは、多くの紙製品にとりまかれて生活しています。最近では帽子や手袋、バッグといった衣類分野にも紙素材が増え、ファストフード店では紙製のストローが登場しました。また、再生可能資源への見直しをうけて、ペットボトルにかわる紙製容器や食品包装用ラップも開発、実用化に向けての動きがみられます。
 さて、私たちの一日に目を向けると、朝起きて最初にふれる紙といえば新聞でしょうか、それともトイレットペーパーでしょうか。台所には懐紙やキッチンペーパーが、食卓にはティッシュペーパー、鞄を開けると手帖やノート、付箋紙、ポーチの中にはウエットティッシュもありますね。玄関の収納には段ボールや使えそうな空箱がたまっていませんか。
 外へ出るとチラシやポスターなどの貼り紙がそこここに、電車には企業の宣伝、週刊誌の広告がひしめき、店ではメニュー、新聞、雑誌、マンガ、フリーペーパーがところ狭しと。会社や学校では、伝票やプリントをはじめ、サービス提供や物品授受、契約締結にはきまって書類が付随しています。スーパーやコンビニにならぶ品物の多くは、紙や箱で包装され、雑誌コーナーにいたっては、ほとんど紙の山ですね。
 便箋に封筒、画用紙や半紙、折紙や千代紙、贈答品には熨斗をかけ水引が結わえられます。床に入って読書したあと見上げると、木目調の紙が貼られた天井板がみえます。日本の家には障子に襖、屏風に行灯と紙が欠かせません……。このように、どのシーンにあっても紙は、私たちと切っても切り離せないことが分かります。ここからは、印刷加工をほどこす紙の話をしていきます。

 はじめに、紙は何から作られているか、みなさんご存じですか。そう、パルプです。パルプとは植物の繊維が絡んだ状態のことで、これを細かくほぐして洗って溶かし顔料や填料をくわえて漉くと紙のできあがり。製紙用パルプの大半は針葉樹などの木材を加工して作られることから、紙の原料はパルプ(=木)ということになります。紙に触れていると心地よく感じるのは、姿をかえた木々に接していることとも無関係ではなさそうですね。
 つぎに、版画を作ったときのことを思い出してみてください。彫刻刀で彫った木やゴムに顔料をつけ、そのうえに紙を置いてバレンでこする。顔料が硬いとかすれて、水っぽければ薄い仕上がりに。また、樹脂のように吸水性のない素材だと弾き、反対だとにじんで不鮮明に刷りあがります。
 印刷も基本的には同じことがいえ、インキのつき加減で濃くなったり薄くなったりして、見た目の印象が違ってきます。きれいに印刷するには、平らな紙に適正圧をかけ均等にインキをつけること。そのために印刷適性のよい紙選びが必要になることは、いうまでもありません。印刷面ができるだけ滑らかで、適度にインキを吸収し、毛羽立ちの少ない紙が条件にあげられます。
 それでは、実際の印刷でよく使われる代表的な紙について、かいつまんで紹介します。

上質紙
印刷の現場でもっとも多く使用されているのがこの紙。カサカサした感触はコピー用紙似ですが、より滑らかで腰があってインキの乾きも早い。まさしく印刷に適した紙の基準といえましょう。図表や単調なイラストをふくむ文字中心の印刷物をつくる場合に向いて刷り上がりは、インキが紙に染み込んだ自然な感じ。光沢を帯びた真っ黒にはならないので、その点はご理解ください。扱いやすく刷りやすく価格も安い万能紙、素晴らしきかな上質紙。悩んだときは、この紙を選んでみてはいかがでしょうか。

コート紙(光沢のあるコーティング紙)
名称どおり基材となる紙の上にコーティングが施された紙。広告や写真集でよく見るツルツルしたもので、上質紙に比べると薄く硬い手触りです。インキが塗工層にとどまることから、微妙な濃淡調子の再現や発色のよさを求める印刷物に優れています。上質紙で表現できない深い黒みを出したいときや、あえてドギツサさ安っぽさを演出してみる使い方も。ただし、紙地の反射がつよく文章は読みづらいので要注意。コート紙よりも塗工量の多いものをアート紙といって、一昔前まで写真集や画集、高級カタログの定番はこの紙でした。シワやキズがつきやすいため取り扱いには気を使います。

マットコート紙(光沢のないコーティング紙)
ひとことでいうと上質紙とコート紙それぞれの利点を合わせた用紙。写真は精細に見せたい、文字は集中して読ませたい、佇まいは品よくありたい……。そんな用途にかなうのが、ツヤ消しのこの紙で、コート紙ほど印刷部分の光沢がでないため落ち着いた印象の刷り上がりに。触れた感じはさらっとしていて、コート紙よりも厚みがあってしなやか。低光沢の紙地は上品で、刷られた文字も読みやすいもののコート紙に比べ、こすれによる汚れが起きやすい難点があります。

書籍用紙
名前のとおり読み物中心の本によく使われる紙。上質紙にクリーム色の顔料を練り込むことで裏抜けが抑えられ、印刷部分とのコントラストが弱まり、長時間文章を読んでも疲れにくい仕様になっています。面白いもので、書籍用紙を使うと印刷物の印象が柔らぎ違ったものに見えるほど。印刷における紙の要素は、それだけおおきな位置を占めているということのあらわれです。

特殊紙
これまでお話ししてきた用紙と異なり、見た目が個性的な紙のことを印刷の分野では特殊紙と呼んで区別します。壁紙様とでもいえば質感が想像しやすいかと。使用量や頻度こそ少ない紙ですが、表情豊かで印刷物に圧倒的な存在感を与えます。特殊紙には多くの種類があり、銘柄数は数千にのぼるとか。発売されては廃紙になり、また新商品が出て、を繰り返すなか、近年はナチュラル志向と一点吟味主義の共存傾向にあります。
特殊紙を便宜的に分けると、①表面が平滑で自然な刷りあがりの紙 ②ラフな感触のうえに塗工が施され、メリハリの利いた印刷あがりになる紙 ③表面に凹凸があって紙そのものが存在感抜群の三つになります。前者よりスムース紙、ラフグロス紙、エンボス紙などと呼ばれ、①の代表銘柄は、アラベール、Aプラン、NTラシャ ②は、ヴァンヌーボ、OKミューズガリバー、ミセスB。学術論文や報告書などでよくみられるレザック66をはじめ、タント、ミューズコットンなどが③に分類されます。
 以上、印刷と紙について話しましたが、用紙選定の一助となりましたら幸いです。

【注1】 印刷の分野では、紙を重さ(kg=1,000枚単位)で表示します。おなじ厚さでも、コート紙のように薄くて重い紙、反対に厚くて軽い嵩高紙のようなものがあって判別しずらいため。A4サイズのコピー用紙は、上質紙A判ヨコ目44.5kgがもっとも近く、1,000枚で44.5kgということは、全紙1枚の重さが4.45gになります。全紙とは、漉いたままの大きさの紙で、これを印刷機の寸法に裁断して使うため、印刷場には大きさ違いの紙が沢山あります
【注2】 印刷の分野では、紙の寸法は全紙が基準になります。全紙を半分にすると半裁、4分の1にすると四ツ切、8分の1にすると八ツ切りとなり、サイズは順番に小さくなっていきます。A4用紙は、全紙1枚から8丁取ることができます
【注3】 紙を漉くとき繊維の流れる方向があって、このことを紙の目といいます。一枚物の印刷物はさして支障ありませんが、加工のある場合は、とくに目を通すことが重要です。本などはページがめくりづらく、開き方向と交わるように反ったり、明らかに仕上がりに差がでます。流れ目は、たわませたり、折ったり、短冊状の紙片の垂れ加減などで調べることができます

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